
<インフレと金利が跳ねる時代を生き抜く資産運用の羅針盤>
「金利(Interest)は市場の羅針盤」―。現代資本主義の根幹とも言える金利だが、過去には、宗教によって利子を課す金利所得に対し、とらえ方が大きく異なっていた。例えば、同源の一神教として知られるイスラム教、ユダヤ教、キリスト教は、それぞれ貸金に対して利子を取ることを禁止していた。イスラム教は今も建前としては禁止、ユダヤ教は同胞(ユダヤ教徒)に限って禁止、 キリスト教は中世末期の宗教改革で利子が解禁された。
特にイスラム教における利子の禁止は、経済倫理の中核を成す重要な原則となっている。イスラム金融では、手数料、売買差益、事業活動への出資、配当などの表現を用いて収益を上げることになっている。
一方、ユダヤ教も厳しい戒律があるが、異教徒に対しては利子を取ることが認められていた。シェークスピアの「ベニスの商人」に登場する高利貸しシャイロックにみられるように、金貸しは、かつてユダヤ人の代表的な職業だった。
興味深いことに、仏教では最初から利子は禁じられていない。またユダヤ教には寄付の仕組みがあり、金持ちでも貧しくても、収入の10分の1(10%)を、お世話になった人への恩返しや社会還元の意味を込めて寄付する教えになっている。ユダヤ教徒に裕福な人が多いのは、10%寄付するために利益を上げ続けなければならないという宗教観に由来するのかもしれない。
<インフレ・金利の変動への対応力が運用のカギに>
最近では、世界的な地政学リスクの高まり、インフレ高進、長期金利の上昇などを受けて、金融市場が変動している。第2次トランプ米政権が発足して以降、減税政策・財政拡大による財政悪化懸念、関税政策・移民管理によるインフレ懸念などを背景に、米国のみならず、ドイツや英国でも、短期金利低下にもかかわらず、長期金利が上昇し、金融市場の信頼感が揺らいでいる。
米格付け会社ムーディーズ・レーティングスは5月16日、政府債務や利払い費が増加していることなどを理由に、米国債の長期信用格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」へと1段階引き下げたと発表した。S&Pグローバル・レーティングは2011年、フィッチ・レーティングスは2023年に米国債の格付けを最上位から1段階引き下げており、主要格付機関3社が米国債の格下げを実施したことになる。
こうした米国債格下げの余波が、信用不安に波及するリスクも意識されている。ICEデータデリバティブ(IDD)によれば、国が債務不履行になるリスクをやり取りする金融派生商品クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場で米国債を対象とする保証料率(10年物)は5月16日時点で0.58%程度を記録した。一方、格付け最上位のスイスの保証料率は0.13%程度。ちなみに日本は0.30%程度、中国は0.78%程度だった。
(出所:QUICK)
インフレ・金利の上昇局面を迎え、従来の投資方針のままで問題ないのか。それともポートフォリオの再構築が必要なのか。投資家に対し、市場環境の変化に応じた新たな運用戦略やポートフォリオ構築の見直しを促す意見が出ている。
ラッセル・インベストメント株式会社執行役員の金武伸治氏は5月16日、都内で機関投資家向けに開催されたJ-MONEYカンファレンス(主催:株式会社エディト)にて講演し、特に実質金利が低下する半面、インフレ率が上昇する局面となる、緩やかなスタグフレーションに陥る懸念があるとした。その上で、対応策として、「高いヘッジコストに対する為替管理の強化、プライベート資産への投資によるボラティリティー(変動率)の低減、インフラストラクチャーやインフレ連動国債への投資によるインフレ耐性の強化など」を挙げた。
あわせて、同日の講演では、不確実性が高まる市場環境下における機関投資家の有効な運用ポートフォリオへの組み入れの一案として、金利変動に応じた多様なクレジット戦略を紹介するセッションもあり、UBSアセット・マネジメント株式会社運用本部クレジット運用部長の堂園義信氏が、①バンクローン②ローン担保証券(CLO)③ダイレクト・レンディング④変動金利を中心としたマルチ・アセット・クレジットなどの概要について解説した。
<次の財テクブームに備え、歴史と市場から学ぶ>
一般的には、ポートフォリオにおいて株式と債券の配分の割合を6対4に設定することが適切とみられている。しかし、リターン(投資収益)の相関を低くするため、足元ではオルタナティブ(代替)資産の追加を勧めるアドバイザーも増えている。
オルタナティブ投資の新しい選択肢として、高度に多様化したプライベート市場でのマルチ資産の運用戦略に加え、プライベート市場における投資家の流動性需要や回転率向上などを理由に、流通(セカンダリー)市場での取引額拡大を指摘する声もある。
景気循環の観点から言えば、通常は、商品・サービスの需給が引き締まり、インフレが高進する時期に、金利が上昇する傾向がある。半面、需給が緩和し、デフレに陥る時期には、金利は低下する傾向がある。
投資の世界において、金利はリターン(投資収益)に直結する重要な要素だ。英語のInterestには、興味・関心という意味もあり、高い興味・関心を持つ活動により、高金利を得られるのではないだろうか。次の財テクブーム到来を享受できるよう、今から先回りして準備しておくのも一手だろう。
参照:
【金言10選】ユダヤ人の成功の秘訣「タルムード」の教え
ユダヤ人に成功者が多いのは「タルムード」に理由があった | ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門 | ダイヤモンド・オンライン
経済と人生における利子の役割(3/7):宗教と初期の思想家たち - イスラームという宗教
イスラム教が利子禁止の理由とは?
bdyview.do