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2023/02/22
今注目の投資戦略
アクティビスト・ファンドが活発化、底値買いの好機か

<アクティビスト・ファンドが活発化、底値買いの好機か>

「好況よし、不況さらによし」――。「経営の神様」と呼ばれた松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助による名言だが、投資の世界にも金融危機や景気後退といった困難な時期にこそ、底値買いという千載一遇のチャンスが訪れる。

2020年代に入り、新型コロナ・ウイルス禍やロシア・ウクライナ紛争などを背景に、世界的なインフレ高進と金利上昇を受けて、欧米など主要な金融市場が不安定化し、株式・債券相場が大幅に下落した。各国中央銀行の金融引き締め政策により、過剰流動性相場が終えんし、これまで飛ぶ鳥を落とす勢いだった、米国ハイテク大手のアマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフト、ヤフー、ツイッター、Zoomなどでは、大量解雇が続いている。

米再就職会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが発表した2023年1月の人員削減数は102943人と10万人を超え、2020年以来の大きさだった。前月の2倍を上回り、前年同月比では440%増加した。

こうした中で「物言う株主」と言われるアクティビスト投資家の動きが活発化している。米投資銀行ラザードが発表したリポートによると、2022年のアクティビストによる株主提案・権利行使件数は世界で前年比36%増加の235件となり、2018年以来、4年ぶりの高水準を記録した。

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最も標的企業となったのはハイテク企業で全体の21%を占め、次いで工業製品企業が19%となった。特に米国では、業績悪化や株価低迷の影響が大きく、身売りなど買収・合併(M&A)関連の要求も目立った。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)による2月8日付報道によると、著名アクティビストのダニエル・ローブ率いるヘッジ・ファンドのサード・ポイントが、顧客関係管理(CRM)サービス大手セールスフォースの株式を取得した。エリオット・マネジメント、スターボード・バリュー、インクルーシブ・キャピタル・パートナーズ、バリューアクトのアクティビスト4社は、いずれも出資するセールスフォースの変革を望むと表明したもようだ。

サード・ポイントは米食品大手キャンベル・スープ、英蘭系石油大手シェル、米娯楽・メディア大手ウォルト・ディズニーなどの株式を取得して経営改革を求めたことで知られている。

一方、国内では、東芝の事業経営を巡り、海外アクティビストと国内投資ファンドの攻防が激化している。東芝は202329日、日本産業パートナーズ(JIP)連合から株式非公開化を含む再編提案を受け取ったことを明らかにした。買収額は2兆円規模とみられ、大株主である海外アクティビストのファラロン・キャピタル・マネジメント、3Dインベストメント、エリオット・マネジメント、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントなどが応じるのか注目を集めている。

この他にも、香港アクティビスト・ファンドのオアシス・マネジメントによるエレベーター大手フジテックへの経営権を巡る臨時株主総会の招集請求、米バリューアクト・キャピタルによる日本セブン&アイ・ホールディングスへの売却の可能性を含む戦略的選択肢の検討要求、英投資ファンドのニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドなど3社によるTKに対する株式公開買い付け(TOB)実施などが報じられた。

株主関連サービスのアイ・アールジャパンホールティングスによると、2022年のアクティビスト・ファンドによる日本企業への株主提案件数は53社に上り、2021年の25社を大きく上回り、過去最多を更新した。また日本における敵対的TOBも増加傾向という。

<アクティビストはハゲタカなのか、救世主なのか>

アクティビスト(物言う株主)が組成するファンドは、一般的な投資信託と異なり、富裕層や機関投資家から私募により資金を調達し、投資の分散により、高いリターンを追求するヘッジ・ファンドの一種だ。主な戦略であるイベント・ドリブン戦略は、保有する株の力を利用して、株価の歪みがある投資先企業へ積極的に働きかけ、業績の改善を促し、価値を高めて利益を得ることを目指す。このため、景気低迷期に、不況に陥った業界の再編や人員の削減、企業のM&A、分社化(スピンオフ)など事業の再構築(リストラクチャリング)を主導する場合も多い。イベント・ドリブン戦略を採り、経営破たんなど、株価が変動しやすい市場の混乱期を収益機会とする。

アクティビスト・ファンドは、経営陣との対話や交渉、株主提案、委任状争奪戦、訴訟などを通じて、経営陣に改革の要求を突きつけ、人事にも積極的に介入する。このため日本では、ハゲタカ・ファンドと呼ばれることもあり、迷惑な存在として忌み嫌われてきた。

しかし停滞している企業の古く悪しき慣習、制度、構造、体質などを一掃して、新陳代謝を図り、業界の効率化や革新を推進する力になるとの観点から、産業界の救世主にもなり得るだろう。

世界的に有名なアクティビスト・ファンドは、大胆でダイナミックな提案、短期間で強烈なインパクト、俊敏な行動力、利益が乗ったら売り抜け、資金力が豊富で鋭い物言いといった特徴を持つ。

また事業の整理・統合・再構築により、売上・収益などを向上させ、一段と強固な企業へと生まれ変わらせることができるのか、経営の力量が問われるほか、将来を見据えた戦略といった展望などアクティビスト・ファンドの役割は重要度を増しつつある。

アクティビストと一緒に、バーゲンセールで掘り出し物を見つけるように、投資先の企業を吟味・物色することは、不況期の数少ない楽しみ方かもしれない。

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参考文献:
Lazard.com | Lazard's Review of Shareholder Activism - 2022
Third Point Has a Stake in Salesforce - WSJ
米人員削減数、1月は10万人超える-2020年以来の大規模カット - Bloomberg
Protect Fujitec
世紀東急工業株式会社 | 株式会社ストラテジックキャピタル (stracap.jp)
140120220920534263.pdf (kabutan.jp)
news20220511_4.pdf (yamato-se.co.jp)
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