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2022/08/30
今注目の投資戦略
「物言う株主(アクティビスト)」が活躍する局面とは?

<物言う株主(アクティビスト)が活躍する局面とは?>

「潮が引いた時、初めて誰が裸で泳いでいたかが分かる」――。著名投資家ウォーレン・バフェットの言葉だが、好景気の時はうまくいっているように見えても、流動性が低下して上げ潮相場が終わり、不景気になると、恥ずかしい姿(投資・運用・経営の失敗)が露わになるという意味だ。

景気の転換期や時代の変革期などに際し、ヘッジ・ファンド業界では、「物言う株主」と呼ばれるアクティビストが活躍する場面がある。アクティビストにとって、金融市場の不透明感が増し、株価が下落する局面で、対象企業の株式を安価に仕込むことが絶好の投資機会につながることが多いためだ。

折しも、国際的な高インフレ定着と金利上昇などを背景に、欧米中央銀行による金融引き締め政策が採られる中、今後の世界経済への影響が警戒されている。

米労働省が8月10日に発表した7月の消費者物価指数(CPI)は総合指数で前年比8.5%上昇となり、約40年ぶりの伸びとなった6月の9.1%上昇からは鈍化したものの、5カ月連続で8%超の上昇率が続いた。変動の大きい食品・エネルギーを除くコアCPIは前年比5.9%上昇となり、6月(5.9%上昇)と同率だった。

米消費者物価指数(CPI).png (出所:QUICKのデータを基にくにうみAI証券が作成)

市場の一部では、インフレ率はピークを付けたとの観測が浮上しているものの、広範なコスト・プッシュ・インフレによる企業・家計の負担は増大している。金利上昇に伴い、過大な債務・負債、レバレッジ(借入金による投資)、エクスポージャー(投融資)などの縮小・削減を迫られるだろう。

個人消費や経済活動の減速を警戒する声が聞かれる。米国債の利回り曲線(イールドカーブ)は、2年債利回りが10年債利回りを上回る逆イールドが続いており、景気後退(リセッション)懸念もくすぶっている。

一方で、11月に米中間選挙を控え、バイデン大統領は520億ドル規模の補助金・奨励金を盛り込んだ半導体業界支援法案を成立させたほか、4300億ドル規模の税優遇や医療費負担軽減などを含むインフレ抑制法案も成立させた。

米フェデラル・ファンド(FF)金利.png

(出所:QUICKのデータを基にくにうみAI証券が作成)

<アクティビストが活躍する流れへ>

将来の経済や景気に対する警戒感が強まる環境の下、アクティビストが活躍する機会が増えそうだ。リスク回避の動きを受け、ハイテク株や暗号資産(仮想通貨)などを含め、最も売りを浴びた業界にも熱視線が集まるだろう。

アクティビストは、企業の経営陣、従業員、取引先、地域、他の株主などステークホールダ―(利害関係者)に対して、事業・部門の再編・売却・分社化などのリストラクチャリング、合併・買収(MA)、業務・資本提携や協業、経営陣の交代、取引・雇用条件の変更といった厳しい要求を突きつけ、事業価値の最大化を目指すための圧力をかける。イベント・ドリブン型の戦略により、業績の改善を図り、株価回復により、収益機会を得る手法だ。

事業内容を客観的に精査し、積極的に企業に働きかけ、経営陣との対話・助言・交渉などを通じて、投資先の価値を高めるほか、社会・環境問題や地域活性化など、株価に影響を与える多様な株主提案を行う。

経営不振の企業に向けては、役員報酬の減額、取締役の解任・選任、人員・コスト削減、増配・自社株買い要求、低収益事業の売却・撤退・転換などの提案、高収益事業のMA要求、声明公表などを行う。議決権行使に当たり、委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)や訴訟も辞さず、時に激しい争いに発展することもあり、リターン(投資収益)を見込める企業へダイナミックに介入する。

最近の事例では、米有力アクティビストのダニエル・ローブ氏率いるヘッジ・ファンド、サード・ポイントが、ウォルト・ディズニー株式を取得し、スポーツ放映事業などの分離やコスト削減を求めていると報じられた。インターネット動画配信サービス事業の再編を求めて、圧力を強めているという。

また米アクティビストのライアン・コーエン氏率いるRCベンチャーズは、家庭用品小売りのベッド・バス・アンド・ビヨンドの保有株を売却し、6810万ドルの利益を得て、約7か月間で56%のリターン(投資収益)を上げたと報じられた。

アクティビストは、日本国内では面倒なグリーンメーラー/総会屋もどきと扱われる場合もあるが、海外では、長期的な視点からの企業統治(コーポレート・ガバナンス)に関する提案は、従来のやり方が通用しなくなる時にこそ傾聴に値し、経営改革や資本効率・株主還元といった問題意識につながると見られている。 

参考文献:
Consumer Price Index unchanged over the month, up 8.5 percent over the year, in July 2022 : The Economics Daily: U.S. Bureau of Labor Statistics (bls.gov)
米サード・ポイント、ディズニーに事業見直し要求: 日本経済新聞 (nikkei.com)
物言う株主出資、ディズニーに圧力 配信事業再編求める: 日本経済新聞 (nikkei.com)
ベッド・バス株急落、アクティビストのコーエン氏が全保有株を売却 - Bloomberg
2023年の米景気後退を85%が予想、米大学世論調査(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ (jetro.go.jp)


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